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新春対談新春対談高野区長(以下、区長)●3月11日の東日本大震災で豊島区はもちろん、日本中の防災に対する意識が変わりました。中林先生の講演では「事前復興」というキーワードがとても新鮮でした。中林一樹(以下、中林)●被害が起こってからではなく、起こる前に復興の準備をすすめておこうという考え方で、阪神淡路大震災をきっかけに生まれました。東京の被害想定は阪神地区の5倍。神戸と同じスピードで復興しようと思えば、事前の取り組みが不可欠です。そこで「自分の住むまちが燃えたり壊れたりしてしまったら、どのように復興するのか」を地域の皆さんと一緒に考え、未来のまちの姿をあらかじめ描いておこうというわけです。復興の道筋を経験しておけば、気持ちも前向きになります。区長●以前は、復興など災害が起こってから考えればよいという意見が大半だったように思います。中林●大前提にあるのは、災害を乗り越えて、このまちを復興するのだという気持ちです。これは日常のまちづくりではぐくまれるのです。このまちに住み続けたいとの想いがなければ、住民は流出し空き地ばかりが増えてしまうでしょう。区長●まちを愛する気持ちが大事ですね。中林●そのとおりです。今、「レジリエンス(resilience)」という言葉が国際的にも盛んに言われるようになりました。災害に打ち克つ力、復元力といった意味なのですが、地域を愛する人がいれば、まちは必ずしぶとくよみがえります。高齢化が進み人口が頭打ちになる時代には、過去のように予算の許す限り都市を拡大していくやり方はそぐわなくなりました。重要なのは住民がどういう暮らし方をするのかであり、むだのない空間整備が必要です。行政にも道路、建物といった器を安全にするだけでなく、その中で住民がいきいきと生活できる舞台を準備する役割が求められます。区長●豊島区では、小学校区に一つ設けた「区民ひろば」を中心に、世代を超えたコミュニティが生まれつつあります。地域の特色を活かし、運営も地域の皆さんにお任せしているのですが、その点がWHOのセーフコミュニティ認証においても高く評価されています。都市の目指す形はいろいろだと思いますが、最終的に行き着くのは「安全安心なまち」だと思います。 セーフコミュニティ認証に挑戦するのも、「安全安心のまち」に向かって区民の気持ちが一つにつながるように、との願いがあるからです。中林●住民の自立性にまかせて、自助の力を蓄える。補助金型ではなくコミュニティ交付金型のような発想ですね。地域としての共助、個人としての自助が一つになったまちづくりが住民の立場だとすれば、その外側にある都市スケールの都市づくりで大災害から住民を守るのが行政の仕事。これこそ官民協働です。区長●地域の力という観点から言えば、もしもの場合に一番頼りになるのは中学生、高校生。防災訓練にも大勢の中学生が、はつらつと参加してくれています。中林●子どももまちを守る戦力です。そのためにも、もう一度義務教育を地域教育に位置づけて、地域の子どもたちとして地域みんなで育てていくべきではないでしょうか。彼らが親になればその子どもが同じように教育を受け、40年もすれば3世代が、まちを愛する気持ちや、災害に負けないこころを身につけることになります。 今回の震災で「津波てんでんこ」という言葉がクローズアップされましたが、これは命を守るにはお互いの自助を信頼して、てんでばらばらに逃げなさいという意味なんですね。東海地震は津波が5分で到達すると言われており、こうなると一人ひとりががんばって逃げるしかありません。区長●保護者と子どもが共に防災の知識を持ち、それぞれ自分の命を守れば、結果として全員が助かるということですね。保護者が帰宅困難になっても、子どもは地域や学校で安全に過ごせるという信頼関係が築けていれば、危険な中を是が非でも家までたどり着かなくも構わない。地域への信頼が命を救うことにつながるのでしょうね。中林●最悪の事態を防ぐには、イマジネーションこそが力になるのです。また、まちづくりとは夢を描くことであり、夢を描ける人はイマジネーションの持ち主でもあります。夢を夢で終わらせず実現しようと行動すれば、それはやがて周囲の人にとっても自分自身の夢になっていくでしょう。夢を描く想像力が未来を切りひらき、創造力を生み出す。これが人間の力なのです。区長●夢を持つのは人間の特権ですね。区民一人ひとりがイマジネーションを持ち、リーダーシップを発揮して、まちづくりを行なっていけるとよいですね。復興マニュアルを作るところでおしまいではなく、行政と区民が協力して、いかに毎日のまちづくりに活かせるか、ここからが本当の豊島区の挑戦になります。 本日はお忙しい中ありがとうございました。 今後30年以内に首都直下型の地震が起こる確率は70%だと言われています。23区で一番の高密都市である豊島区では、万が一甚大な被害が発生した場合、どのようにまちを復興し、再生するかを想定し、復興マニュアルづくりを進めています。今回は作成にあたってご協力頂いた、明治大学大学院特任教授/中林一樹氏をお招きし、官民一体となった防災まちづくりをテーマにお話しいただきました。●中林 一樹(なかばやし いつき)1947年生まれ。明治大学大学院政治経済学研究科特任教授、首都大学東京名誉教授、工学博士、一級建築士。内閣府中央防災会議専門委員、東京都防災会議地震部会専門委員などを歴任。5年以上にわたり豊島区の防災対策に関わる。著書に『大震災に備える』(丸善)、『自治と参加・協働』(学芸出版社)など。明治大学大学院特任教授中林 一樹 豊島区長高野 之夫〝まちを愛するこころ〞と〝夢を描く力〞 が災害に強いまちをつくります2
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